坪井 直「魂の叫び」4

核なき世界へ ネバーギブアップ

反対意見も聞く姿勢で

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60歳になって先生を退職するときに

「あんたは平和教育から逃げちゃいかんぞ」と言われた。広島県原爆被害者団体協議会の「事務局長がおらん」ゆうことになって、引き受けた。

それから30年になります。

これまでに21回も外国に行った。アフリカ、ヨーロッパ、パキスタン、中国、北朝鮮……。アメリカには8回くらい。核実験をやっていると聞けば、「馬鹿者!」と言いに行かにゃならん。

「相手を選ばず」ゆうことが大切。自分の考えと違っていてもね、聞くだけは聞く。アメリカの大学生は「原爆を落としたのは正しかった」ゆうからね。聞いてやって「俺はそうは思わない。多くの人間を殺す原爆が正しいと言えるか」と返す。

自分の仲間にだけ伝わるようではいかん。自分の思いだけでなく、相手のことも考える。現実には気に食わんことがたくさんあるよ。あってもね、あきらめちゃいかん。「おい、お前も人間じゃろう。俺も人間じゃ」ゆうて、手をつなげるようにならにゃいかん。

そのためには、あきらめる心があってはならない。それをちょっとかっこよさげに言うと「ネバーギブアップ」ゆうもんでね。

 

オバマさんと共に歩む

オバマさんに「広島に来てください」と、初めて手紙を送ったのは7年前になるかね。チェコのプラハで、何万もの人を前に「核兵器のない世界をつくろう」と演説したのを聞いて、この人とならいっしょにやっていけると確信した。それから毎年のように手紙を送り続けた。

(5月27日に広島を訪れた)オバマさんと話せることが分かったのは、式典が始まるちょっと前よ。ひとこと、ふたことだって言うけどね、まあ心臓が2つ、3つになったかと思うくらいドキドキした。

「91歳の被爆者である坪井直(つぼいすなお)です。よう来てくださいました。私たちは、あなたに謝罪を要求することはありません。あなたが来られて大歓迎です」

ゆうようなことを言った。ここまでが過去。そうしたら、オバマさんの表情がふっとゆるんだんよ。

「いま資料館を見てこられたが、ちょっと時間が短いねえ。原子爆弾の全体像を分かるには、実際の被害を受けたものや人をその目で見にゃいかん。被爆者に話を聞かにゃいかん」。まあ、現在については説教じみたことをゆうたんです。

「しかし、あなたはね、来年の1月には大統領を辞めて普通の人になられる。そうしたら時間が少々あると

思いますので、広島にたびたび来てください」。これが未来じゃ。この対話はゴールではなく、スタート。

「未来志向で、オバマさんがプラハで言った『核兵器のない世界』へ私たちも行きますよ」ゆうたら、握っていたオバマさんの手の力が強まった。

 

憎しみを越えて未来へ

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原爆を受けてからずっと「こんちくしょう! 今に見とれ、かたきを取るぞ!」ゆう気持ちでやってきたのが、オバマさんに会ったときには「あなたに謝れとは言いません」となった。だいぶ変わったね。

何で変わったかゆうたらね、私が先生になったころは、テレビも何もないんですよ。だから、私が勉強してきたことは間違いだったかどうかを図書館で調べ始めた。

私は20歳で原爆を受けとるでしょう。そのときまでにきたえ上げられた教育は、いわゆる「軍国教育」。「神の国」だから、戦争に負けるわけがない。そうやって私は軍国少年になった。先生になって、たくさん本を読んだことが、私の見方を広げてくれた。外国へ行った経験も大きい。

私の憎しみ「アメリカの野郎……」ゆう気持ちは、今でも腹の底の方にはありますよ。でも、それを乗り越えにゃいかん。どうして乗り越えられるかゆうたら、人類の幸せを考えるから。「人類が幸せになるために核兵器はいりませんよ」ゆうことです。オバマさんも同じように考えている傾向があるね。

あなたがたが今日、私に聞いたことを誰かに話す。私は、それが一番大事だと思うとるんです。自分の意見と反対の人がおってもええんよ。それでも話をすればいい。人類の知恵ゆうんはね、ただ原爆を作っただけじゃない。人間ゆうのはね、すごい力を持っとる。じゃから、あきらめちゃいかんですよ。私は明日死んだってね、苦にはならんよ。みなさんは、体を大事にしてね、病気をしないようにがんばってください。体が第一だから。ここまで、よく話を聞いてくださいました。どうもありがとう。

 

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Posted by abiru