おばあちゃんの人形

おばあちゃんの人形

絵 ・ 文 / 佛教大学社会福祉学部黒岩ゼミ

(花垣ルミさんの証言をもとに作成)

チャイムの音 キーンコーンカーンコーン! 先生 おはようございます。今日は「ふれあいデー」 ですので、おじいちゃんおばあちゃんに教室に来て いただきました。 先生 皆さんが書いた、おじいちゃんおばあちゃんの 作文を発表してもらいます。初めに、山下はるこさ んにお願いします。 -ぬきながらー はるこ はい!

 

はるこ「私のおばあちゃん。」私のおばあちゃんは、63年前に原爆 の被害に遭いました。今はその被害と、平和の大切さを伝えるた めに、被害者の代表として、学校だけでなく、海外にも行って話 をしています。おばあちゃんの家に遊びに行くと、私にもよくそ の話をしてくれます。おばあちゃんはいつもニコニコ笑っている ので大好きです。でもこの間、そんなおばあちゃんが泣いている ところを初めてみました。 ―ぬくー
はるこ おばあちゃんに「どうしたん?」と聞くと答えてくれまし た。 (尐し間を空ける) おばあちゃん びっくりさせてゴメンね。はるこが小さい時遊んで いた人形を見ると思いだすことがあるのよ。おばあちゃんも昔、 これによく似た人形で遊んでいてねぇ。大切にしていたのに燃え ちゃった・・・。はるこ え!? なんで?おばあちゃん それ はねぇ・・・。 -ぬくー (尐し間を空ける)

 

おばあちゃん おばちゃんは5才まで東京に住んでいたの。 「空襲」って知ってる?敵の飛行機が飛んできて爆弾を落として いくんだけど、それがどんどんひどくなって、親戚のいる広島に 逃げたのよ。おばあちゃんは人形が大好きで、もみ殻を詰めて作 ったその人形に「たえちゃん」って名前をつけていつも一緒だっ たの。 あの日もいつものように「たえちゃん」と遊んでいたわ。 とても天気がよくてねぇ。「たえちゃん」と外に行こうとして、おんぶした瞬間・・・。 -素早くぬく-

おばあちゃん あたり一面「ピカッ」っと光ったの。 それはまるで、太陽がいくつも落ちてきたような強い光でね。 そのあと、「どーん」と大きな音が聞こえたのと同時に、ものすご い熱と衝撃で飛ばされたの。 何が起こって、どうなっているのか、まったくわからなかった。 -ぬくー
おばあちゃん 吹き飛ばされた私のそばに「たえちゃん」がいた。 ルミ 「たえちゃん・・・」 その時、お母さんの声がした。 おかあさん ルミ!早く!早くここから逃げるの! おばあちゃん 私は「たえちゃん」を抱きしめて、お母さんに引っ 張られるまま、とにかく逃げた。色んな物が燃えていた。 ひしゃげたかごの中に真っ黒になっている鳥。 その辺にいたはずの犬や猫、馬も黒焦げになって死んでいる。 焼けただれた手の皮膚が垂れ下がったまま歩いてる人、真っ黒に なって「水…水…」とうめいている人・・・。 そんな中をお母さんに引っ張られて、とにかく逃げたの。 -ぬく-
(緊迫した状態で) ルミ 「たえちゃん!たえちゃんに火が!」 おばあちゃん 逃げている途中、つまずいて、たえちゃんを落とし てしまったの。 お母さん 「ルミ!早く!」 ルミ 「お母さん!たえちゃんが…!たえちゃんが!」 お母さん 「ルミ!だめよ!置いていきなさい!」 ルミ 「たえちゃん!たえちゃん!」 (尐し間を空けて) おばあちゃん いつも大切にしていた人形が燃えているのを見て、 初めてこれは大変なことが起こっていると気付いたの。お母さん に手を引かれながら、とにかく火のない方へ逃げていったわ。 -ぬく-
おばあちゃん どれぐらい時間が経ったか、どこまで逃げいったの かわからなかった。(間を空けて) 「たえちゃんが」が死んだ。 鳥や猫が死んだ。私の街も死んだ。 みんな死んだ みーんな死んだ。 -ぬく-
ルミ くさい!おばあちゃん 息ができないほどのニオイがしてき たの。それは今まで嗅いだ事のない、言葉では表現できないほど のニオイだったわ。手足がない人、ゴムボートみたいにパンパン に膨れた人、真っ黒焦げの人が山のように積まれて燃やされてい た。怖かった。だけど目が離せなかった。 お母さん ルミ! 見ちゃだめ!! -素早く抜く-
おばあちゃん お母さんが飛んできて、私に目隠しをしてくれた。 そして私は気を失ったの。子どもにはその景色はあまりにショ ックが大きすぎたんだろうね。気付いた時にはもうその時の記 憶はなくなっていたの。ある日、はるこの人形を見たときに、 この原爆の記憶が蘇ってね。58 年も経ってから蘇ったのよ…。 何度見ても思いだしてしまうわ。この人形、あの「たえちゃん」 にそっくり…。(間を空けて) 1945 年 8 月 6 日広島に原爆が落とされた。 3 日後の 8 月 9 日、長崎にも原爆が落とされたわ。 本当にたくさんの人の命が奪われた。その年の 8 月 15 日、日本 は降伏して、この戦争はやっと終わったのよ。 -ぬく-
はるこ それから、おばあちゃんは奈良の親戚の家に移り住んで暮 らしました。そこでの生活は平和で、川で遊んだり、田んぼで ザリガニ釣りをしたりして遊んでいたそうです。 ある日、田んぼで遊んでいる時にヒルに噛まれたそうです。他 の友達は噛まれても、すぐ血は止まりましたが、おばあちゃん だけはなかなかとまりませんでした。それは原爆の影響だった かもしれません。おばあちゃんだけでなく、被爆した人は、怪 我が治りにくかったり、貧血になったり、ガンになりやすいよ うです。元気そうに見えても、今も苦しんでいる人は大勢いま す。おばあちゃんの話はショックだったけれど、この事実は忘 れてはいけないと思いました。 -ぬく-
はるこ おばあちゃん、原爆作って、落としたアメリカって憎い? おばあちゃん ううん、そんなことないよ。アメリカが憎いとか、 アメリカの人たちが嫌いなんじゃなくて、大好きだった人形のた えちゃんまで焼け死んでしまうような…戦争が嫌いなの! はるこ おばあちゃん、つらい事いっぱいあったんやねぇ。 おばあちゃん つらい事もたくさんあったけど、嬉しい事もたく さんあったのよ。はるこのお母さんが生まれて、そして大好きな はるこが生まれてきたかね。はるこ おばあちゃん、生きていて くれてありがとう。
※公開については、黒岩ゼミの皆様の御了解、花垣ルミ様の御了解を得ております。

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Posted by abiru